「切羽へ」井上荒野


「切羽」は「きりは」と読ませ、トンネルを掘っていくときの、
貫通する前の、先端の部分のことを言うと作中に書かれている。
通常私たちは「せっぱ」と読んで、「切羽場」「切羽詰まる」などと使うが、
いずれにしても、ぎりぎりどん詰まりの逃げ場のない状況のことを
さしているのだろう。
井上さんは、この作品で、H.20年(139回)直木賞を受賞している。

切羽へ切羽へ
(2008/05)
井上 荒野

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静かな恋愛小説である。
どこか小さな離れ島の、小さな小学校の、保健室の先生と、
そこに赴任してきた年下のピアノの上手な男性教師。
のどかな日々。繰り返される日常。
ふたりの想いは、誰もが気付いているが、誰も指摘することなく、
夫もそれには触れず、また、実際にも何も起こらない。
女性教師の夫は画家で、妻を愛しており、妻もまた夫を愛している。

こういう、どうしようもない想いというのは、たくさん、あちこちで
日常的に頻繁に、あるだろう。
そこに走る人もいるだろうが、しかし、何も起こらずに終わることも、
また、非常に多いだろう。
それを、静かに、ていねいに描く小説を、「美しい」「情感的」と
賞賛することを、否定はしないが、
しかし「だから、なに?」と思ってしまう私は、たぶんひねくれ者だ。

対照的な、肉感的で、奔放な、もうひとりの女性教師に
より好感を抱いてしまうのは、この作品が、
「生きていること」を「不愉快」の範疇に分類・整理しているように
思われるからだろう。
この「不愉快」というのは、「沈鬱」だとか、「苦悩」だとかとは違って、
もっと、諦観に満ちた、より扱いに困るもののように感じられる。
全編に、しつこく停滞する、何かザラッとした違和感。
胃にもたれるような、咀嚼できない感じ。
「不愉快な生」の中にある「愛」もまた、「不安」「不確実」なことに
分類されている。それは、安泰をもたらさない。

こういう、のっぺりとした小景をつなぎ合わせて、ひとつの作品世界を
描き出そうとするものが、小説でも、映画でも、この頃多いように思う。
私は、もっと能弁に、しつこいくらいに圧倒的に語りつくして、
それでもまだ、見るもの・読むものに考えさせる余白の部分を
十分残しているような作品の方が、見ごたえ・読み応えがあるし、
好きだ。



「食堂かたつむり」小川糸

このところ予約本の順番がドドッとめぐってきていて、
読むべし、読むべし、なんだけど、
この話題本は半日もあれば読めるボリューム。

食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

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おいしい料理で人を癒す、という内容の出だしに
おや〜「かもめ食堂」に似てるなあ・・・と思いつつ読み進むと、
後半に入って主人公の周囲の人間ドラマになると急に
様子ががらりとかわり、前後半のムードが違う。
読後感も爽やかとはいかず、どよーんと後味をひく。
前半がメルヘンで現実味に欠けるので、後半でリアルさを
出そうとしたのか、しかし、急に猟奇的?になったり
するのはよろしくないよ。

エルメスのところは、これは必要なのか??
なぜ?こんなこと、避けられることじゃないの。
おかんのところも、泣かせどころなのだけど、
しかし、現実にはありえないでしょう。
ラストの野鳩の部分も、おかんのキャラとの符号性がないし、
“声”との必然性も感じられない。
どうも全体がおとぎ話的だ。

人はひとりでは生きていけない。誰かに支えられ、
誰かとかかわって生きているということ。
そして、命の大切さと、生きていることの意義、目的。
さらに、人を愛するという気持ち。ピュアな恋心。
それぞれがいっぱい散りばめられているが、
どうもうまくしぼりきれてない気がする。
だた、母と娘の心理的な葛藤というか、そういう、女性ならではの
視点には共感できる。
が、その設定が突飛なのが残念。

これは、好きな人は、すごく好きかもしれないが、
私は、、、しばらく豚肉をパスしたくなった。
ヒットしてる映画が必ずしもいい映画とは限らない、
本もまたしかりってことだ。



「鹿男あをによし」万城目学

今さらながら、やっと、予約がまわってきた。
読んでいると、家族が「それ、TVでみたじゃん」という。
私だって、すでにドラマで見たものを、後から本で読むのは始めてだが、
しかし、本を読むと、これがTVよりもさらにおもしろい!
しかもドラマのイメージをさらにふくらませて読むので
感激あらた、ひとしおである。

鹿男あをによし鹿男あをによし
(2007/04)
万城目 学

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TVでは綾瀬はるかちゃんになっていた藤原くんが、
原作は[マメのような顔の男性・25歳・子持ち]になっていて、
やはりこちらの方がだんぜんよかった。
TVでは藤原くんのオレへの思慕がからまって、それが
堀田イトとオレとのラストの感動をぼやけさせていた。
原作の方が、ラストがぐっと生きてくる。

シカさんが、なぜにかわいい雌鹿なのにおっさん声なのか、
TVではよくわからなかった(←私が見過ごした?)が、
それも原作で納得。
TVで、あんまり魅力的じゃなーい!と思ってたマドンナも、
原作ではとても素敵な女性に描かれていた。
「野生的魚顔」のイトちゃんのイメージはドラマとぴったり♪

これは、神話の、神々の世界を現代にスライドさせた、
勇壮のファンタジー太古ロマンだ。スケールが大きい。
1800年の忠誠を尽くさせるヒメミコへの恋ごころ。
狐が化けることができるわけも納得したし、
ネズミのばあさんも、いいやつじゃん。
TVでかっこよかったリチャードは、実は狡猾な策略家だった。
いろいろ、おもしろかった。
ずいぶん出遅れたけど、やはり原作を読んでよかった。
近鉄に乗って奈良に行きたくなった(^^





「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊

「チーム・バチスタの栄光」に次ぐ、海堂さんの第二作。
前作の愚痴外来のグッチー田口と、
厚労省のロジカル・モンスター白鳥コンビに、新たに、
警察庁の警視正デジタル・ハウンドドッグ加納が加わる。
加納は、白鳥の大学時代の同級生、
モデルなみの美貌、しなやかな長身、センスのよい身だしなみ、
白鳥とは似ても似つかない正反対のタイプ。
部下のチグハグコンビ玉村を連れての参入は前作のテンポのよさを
引き継いで、けっこう楽しい。

ナイチンゲールの沈黙ナイチンゲールの沈黙
(2006/10/06)
海堂 尊

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しかし、犯罪の複線をはっておくための前置き部分が長い。
事件そのものの必然性も説得力に欠けるのではないか。
伝説の歌姫と、その歌唱法を伝授される看護師の部分も、
それをすっきりと納得できるかどうかは、読んだ人によるだろう。

[田口と白鳥+加納・玉村] このメンバーはなかなかいいのだが、
感動的な場面も多々あり、音楽好きには嬉しい作品かもしれないが、
ミステリとしてのおもしろさは「バチスタ」に及ばなかったように思えた。
ただ、この後のシリーズに続けるには、読んでおいた方がいいかな?

06年、宝島社
08年9月には文庫本も出る予定らしい。




日経夕刊小説「薄暮」

なーんか、おもしろくないなーと思いつつ、
読み始めたものだし、開けたそこに毎日あるし、
とりあえずラストを確認するか…と読んでいるものがある。
日経夕刊小説「薄暮」、篠田節子さんだ。

篠田さんと言えば、数々の賞を受賞し、作品数も多く、
実績のある名の通った小説家だ。
その人の書くものだから、今におもしろくなるに違いない、
そのうち、「おお〜〜〜」と絶句するような展開になるに違いない、
と思いつつ読んでいるのだが。
期待に反して、毎日、なんかこれと言って進展がない、ぐだぐだと
あーでもない、こーでもないと、行きつ戻りつしているような。。。

「芸術家と呼ばれる人の自己中心的な生き方と、
それにまき込まれて生きることになった者の苦悩を描く」と
作品のはじめの言葉で、篠田さんは言っていたのだが。
テーマは確かにそれになっているのだが。

この後、劇的におもしろくなるんでしょうか。
いつ頃おもしろくなるんでしょうか。
朝刊の方は、北方謙三さん、こっちはテンポがいい。
思えば、「愛ルケ」の時は毎朝ハラがたったものだったが、
しかしあれはまだドラマ性があったよなぁ。。。
なんて思いつつ(^^;





「楽園」 宮部みゆき

図書館の予約本がやっとまわってきて読んだ。
上下2巻だが、読みやすく、特に下巻は1日で読んだ。
05年7月〜06年8月産経新聞の連載小説。

最近、平野啓一郎さんの「決壊」が、例の秋葉原の事件を
先取りしていたことで話題になっているが、この本も
都内某所の事件を先取りしていたのだそうだ。
作家には何かそういう世の中の事象を敏感に感じ取る
資質があるらしい。
宮部さんは、この構想を自分の見た夢から得たと書かれている。
「ゆれる」の西川監督も、夢で見たことを作品化したと言っていた。
作家、芸術家、クリエイティブな才能にあふれる人たちは、
やはりどこか凡人とは違う鋭い感性を持っているのだろう。

楽園 上 (1)楽園 上 (1)
(2007/08)
宮部 みゆき

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実際の事件ニュースで(忘れているけど)見たのかなぁ・・・?
サイコメトラーもテーマだから、「ガリレオ」でやったっけ?みたいな
既視感、デジャビュ?のような感覚におそわれつつ読み始めた。

あの「模倣犯」の前畑滋子のその後(9年後)である。
交通事故で亡くなったある母子家庭の愛らしい少年が
時空的に知りえないはずの事件の絵を描いていた。
少年にはなにか特別な才能があったのか?
少年はサイコメトラーなのか?
なぜ美少女は殺されて15年間も床下に埋められていたのか?
なぜ両親は、時効後になって事件を明るみに出したのか?
少年の母と美少女の妹の依頼で事件を探ることになった滋子は
少年があの「模倣犯」の事件の舞台となった別荘の絵も描いていた
ことを知り、運命的な思いから深く関っていく。
なぜだ?なぜ少年は、誰から、どこから、事件を知っていたのか?

作中の「親だから」という思いと決断と実行は、
エゴイズムであり、驕りであることは否定できない。
子はわが子ではあるが、別の人格であって、
「子」の前に一人の「人」だ。
そんなことは誰にでもわかりきっているのだ。

しかし、わが子がどうしようもない状況にあり、脱出は
もはや不可能だと知ったとき、親はこういうことをするものかもしれない。
それは、やはり、エゴというより、「愛」と呼ぶべきものなのだろう。
発作的な苦渋の決断ではあっても。

いろんな角度から描かれる「親の思い」が深く胸を打つ。
人物の設定も描写も非常に優れている。
ただ「模倣犯」のような、謎を追うおもしろさにひかれて読むと
いうのとは少し違う。筋は複雑に入りくんだものではなく、
純然としたミステリとしてのおもしろさは「模倣犯」には劣るだろう。

「楽園」も、なぜ、なにを「楽園」としたか、
それは人としての性(さが)へのどうしようもない諦観なのか、
あるいは肯定なのか。。。切ない読後感が残る。

とにかく、子を思う親の気持ちは読むものの心を深くえぐり、ゆさぶる。
「子である人」「親である人」が一読すべき感動作だと思う。





「おひとりさまの老後」上野千鶴子

東大大学院、社会学教授の上野さん筆の話題本。
個人的に「社会学」そのものにあまり好い感情はないが
(あのイヤミなセンセイ、どうしてるかなぁ。。。年とって角がとれたか?)
上野さんの講義だったら楽しかっただろうなと思う(^^

おひとりさまの老後おひとりさまの老後
(2007/07)
上野 千鶴子

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人間誰しも最期はひとりである。
しかも女性の場合は、既婚・未婚に関らず、たぶん「ひとり」になる。
高齢化社会ゆえ、若者の助力に頼ることはできない。
もちろん、私も、「子どもだから看取ってくれる」なんて、
おさおさ考えてはいない。
だから「ひとり」のための覚悟とトレーニングが必要だと常々思っている。

上野さんは、おひとりさまOK!ネガティブメッセージは聞き飽きた、
おひとりさまの老後を楽しもうではないか。
但しそのためには、その[スキルとインフラ=ソフトとハード]が必要
と説く。そのノウハウを述べたものが本書だ。

「どこでどう暮らすか」「誰とどう付き合うか」「お金は」「介護は」
「どんなふうに終わるか」
上野さんに語ってもらえば、ひとりの老後も楽しそう。

ただし、これはやはり、知的階級としての生活の積み重ねと、
[資本と知識と健康のマイバンク]のある人の老後モデル、なのだろう。
いくらハードが整っても、それを使いこなせる人はそんなに多くは
ないだろうし、またどこかにハードが整備されていても、そこに
行き着ける人も、そう多くない気がする。

ただ、「おひとりさま」となった義母や実母を実際に見ていて、
スキルとインフラの構築は、若い頃から、自分で、やっておくべきだと
実感している。
いろいろハードが存在していても、それを、「どれをどう使うか」を
決めておくべきは自分なんだ。
老後に面してから、「さて、何にするかな」では、体力もなく、
知力も衰え、フットワーク重く、すなわち、もう遅い。

と言っても、グズで超・先送り体質な私のこと、たぶん、
その局面になってから、オロオロするんだな(^^;
言うだけ、にならないように、少しは考えていかなくちゃ。


上野さん曰く。
ひとりでいることと、見捨てられていることは違う。
ひとりが「基本」であれば、何も恐れることはない。
恐れるあまり、妥協しすぎて、自分自身のない集団の人として
人生を終わらせないように、日頃から孤独を大切にして生きたい。



それは理想だけどね、と言いたくなることも随所にあるが、
いろいろと参考になる一冊。覚悟とトレーニングのために(^^



「ぼんくら」宮部みゆき

「あかんべえ」がおもしろかったと書いた時に、おススメで教えて
もらったもの。
さすが!(^^やめられなくて専念して読んだ。
講談社文庫(上・下)2冊の長編時代ミステリー。

深川、鉄瓶長屋に連続しておこる怪事件のなぞを
ぼんくら同心・平四郎が解く人情もの。

ぼんくら〈上〉 (講談社文庫)ぼんくら〈上〉 (講談社文庫)
(2004/04)
宮部 みゆき

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とにかく、登場人物たちが全員イカシてる。

やる気に欠けた脱力系同心の平四郎はすごく好みのタイプ(^^
美形すぎて将来が心配される甥っ子の、変わり者の天才少年・弓之助、
こちらも記憶の天才少年、「おでこ」こと三太郎、
シブい岡っ引きの政五郎は、あの伝説の茂七親分の公認後継者(?)、
たよりなげ、でもいい人で一生懸命の新人差配人・佐吉、
いかにもいそうな太腕おかみさんだけど、かわいい乙女心を持ったお徳、
はすっぱだけど人情に厚い、おひきずりのおくめ、
美人すぎて何にもいいことがなかったとボヤく平四郎の妻、
「黒豆」こと隠密同心の平四郎の幼馴染、などなど。

とにかく、おもしろい。
謎解きももちろんしっかり楽しめる。
平四郎シリーズの続編は「日暮らし」があるが、
まだ文庫本は出てないみたい。
ミステリを図書館本で読むと、記憶の劣化が懸念されるし、
でも読みたいし、さて、どうするかなぁ。




「あかんべえ」宮部みゆき

積読蔵書シリーズ(^^
今は新潮から文庫が出ているが、うちのはPHPのハードカバー。
02年発行だから、かなり本棚で熟成が進んだな(汗
(初出、月刊「歴史街道」98.5〜01.9)

あかんべえあかんべえ
(2002/03/16)
宮部 みゆき

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宮部みゆきさんというのは非常に作品ジャンルが豊富で、
つかみきれない不思議な魅力を持った方だ。
これは歴史もので、舞台は江戸、深川。
料理屋の娘・おりんが、そこに住みついている「お化けさん」たちとともに
過去の因縁を解き明かし、事件を解決、成仏させる物語。

最近読んだ中ではBest1にあげてよいくらいおもしろかった。
大感動で、タオル必携。

幽霊の話だけど、怖いものではなくて、
利発な少女が亡者と協力して謎解きしていくおもしろさは
さながら「しゃばけ」のごとく …(読んでないけど(^^;
悪霊と凄まじい戦いを繰り広げる場面の迫力は
「妖怪大戦争」のごとく …(観てないけど(^^;;
そして、人という生き物の哀しさ、その生に負う「業」のやるせなさ、
そしてそれ以上に、切なさ、愛おしさがしみじみと伝わってくる。

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「脳を活かす勉強法〜奇跡の強化学習」茂木健一郎

23刷、延べ48万6,000部、だそうだ。
07年、PHP研究所

脳科学者の茂木さんが、自らの子ども時代からの学習を振り返り、
その効果的手法を語ったもの。
少し前にTVで「鶴の恩返し勉強法」を熱く語る茂木さんを見て買った
人も多いのではないか。あれ、説得力あったもんね。

脳はなにかを達成するたびに、ドーパミンが分泌されて、その快感を再現
しようとするために、強固なシナプスを形成していく。どんどん強くなっていく。
これが「強化学習」の基本。
しかし、これは「喜び」がないと回路がまわらない。
だから、試行錯誤の末に達成すること、評価されることと、自主的行動で
あることが大事である。
この突き抜ける快感は脳にとってクセになるから、少し上の目標を設定して
常にチャレンジングであることがコツ。
さらにチャレンジのためには安全基地が必要で、それが親や家庭、先生で
あること。などなど。

内容に特に目新しいものはなかったが、茂木さんが誠実に、かつ熱弁を
ふるっているところが、なんかとても感動的なのだ。

印象的だったのは、インターネットについて語っているところ。
今は「誹謗中傷」「デタラメ」の温床のようにされているインターネットだが、
ほんの10年くらい前まではそうではなかった。そこは「智」の宝庫だった。
今でもそういう面はインターネットに残されている。どんな論文でも読める。
学ぼうとすれば、いくらでもここで学べる。

知識はエリートの独占物ではなくなった。
これからは、よい大学に行くということ自体に価値がなくなるだろう。

しかし、一方、人とのかかわりの中で「知」は育まれる。
自己完結には意味がない。ひとりで勉強しているだけでは得られないものを
知識の深い人とのかかわりの中で得る。そして、情報の取捨選択をする。
それができる人こそが、これからの輝ける人となる。

日本では勉強を「人生や社会に役立つか?」と否定し、
勉強のできる子は「暗い」といじめられる。
この「知」の軽視、「知の劣化現象」はおおいに嘆くべきだ。
人の魅力は内面の輝きであり、それが「知」である。
人生の岐路において輝くものは「知」である。

まったく同感だな。
(ただし私はもっと「知」を増殖させないと)




「センセイの鞄」川上弘美

ミステリを2冊続けて読んだら、心が殺伐としてしまったので、
ほんわかしたくて、それ風なのを「積読書庫」から探してきた(^^

うちにあるのは平凡社の初版のもの。
装丁がとてもいいなぁ。古本風で、シンプルで上品。イメージにぴったり。
紙も「The平凡社」って感じ(笑)で、うちのはすでに黄変している>早く読めよ
今は新潮と文春から文庫版も出ている。
初出は、「太陽」99.7〜2000,12
01年谷崎潤一郎賞受賞

センセイの鞄センセイの鞄
(2001/06)
川上 弘美

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WOWOWでドラマ化もされており、DVDもあり。久世光彦監督。
小泉キョンキョン×柄本明さん、同級生の小島くんは豊原巧輔さん。
豊原さん、いいなぁ、ぴったりだよ〜(^^

センセイの鞄センセイの鞄
(2003/11/28)
小泉今日子、柄本明 他

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「流星の絆」東野圭吾

これ、売れてるらしい。ま、さもありなむ、だけど。
東野さんの最新作。初出は「週刊現代」06.9〜07,9 講談社

まず、個人的な好みで、このカバー装丁は好きじゃない。
(ごめんなさい。岡孝治さんです)
つるつる地に、キラキラってのが嫌い。それなら、カバーを外した
ツヤなしの黒&銀の方が内容的にもマッチしていいと思うけどなぁ。

読みなれているせいもあるが、東野さんの文章はスルスルと流麗で、
しかもきちんと染み込んでいく滋養のある水分のようだ。
実は今、足を捻挫していて休んでいる状態なので、一日で読んでしまった。
とにかく、相変わらず一気に読ませる強い力がある。

流星の絆流星の絆
(2008/03/05)
東野 圭吾

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洋食屋の夫妻が惨殺された。その間に2階から抜け出して流星群を観に
行っていた兄弟は難を免れる。
施設に引きとられることになった三兄弟は誓い合う。
犯人を見つけたら、必ず自分たちで仕返ししてやるんだと。

14年後、社会の辛酸を舐めた兄弟は、すこぶる美人となった末妹を使って
男をだまし、詐欺を働くグループとなっていた。
しかし、これを最後の仕事に、更生しようと決めた相手が、
なんということか、憎み続けたその宿敵かもしれない。
迷わず復習計画を仕掛ける兄弟。ところが、
どうも、妹はその仇の息子に、ほんとの恋をしてしまったようだ。
どうすればいいんだ?

(以下、ネタバレはないつもりですが、未読の方はご注意を)


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「償い」矢口敦子

矢口さんのものを読むのは初めて。
帯を見ると、「人の肉体を殺したら罰せられるのに、
人の心を殺しても罰せられないのですか?」とあり、
「こんなにも悲しくて、でも温かいミステリに出会えて本当によかった」
とある。45万部突破だって。
ね、そそられるでしょ?(^^

償い (幻冬舎文庫)償い (幻冬舎文庫)
(2003/06)
矢口 敦子

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主人公は36歳の元医師。子どもの病死、妻の自殺、
その原因を作ったのは自分だと絶望し、医療ミスの責任をかぶって
ホームレスになった男・日高。
流れ着いた地方市で、かつて若い頃に命を救った中学生・真人に
出会う。おりしも、平和な街にたて続けに起こる連続殺人事件。
事件を調べるうちに日高はその犯人が、自分の助けた真人ではないか
と疑い始める。


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「中庭の出来事」恩田陸

ミステリ、と言っていいのかどうか、
演劇ジャンルのストーリーなので「チョコレートコスモス」の
続編っぽく認識されているけれど、そういうものでもなくて、
なんとも形容しがたい、すんごい大作で、
まったくの異空間に放り込まれた戸惑いを味わいつつ、
作品世界に文字通り、酔ってしまう。

この「酔う」というのは、いわば「不思議の国」に紛れ込んだ
アリスのような、というか、
よくテーマパークなどで遭遇する「不思議ミラー館」みたいなのに
入ってしまったときのような、というか、
自分がそれまでノーマルだと認識していた感覚が
実はぜんぜんそうではなくて、いや、けどいったい何がほんと?
と感覚の拠り所がわからなくなる感覚というか。
万華鏡をのぞきこんでいる気持ちに似ている、
もっとたとえれば、たけのこの皮をはいでいるような、
いったいどこにほんとの芯がある?どれがほんとの芯?
みたいな・・・

中庭の出来事中庭の出来事
(2006/11/29)
恩田 陸

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第20回山本周五郎賞受賞作。
「中庭にて」というパーツと、「旅人たち」と、『中庭の出来事』という
3つのセクションが交錯しつつ、何度も繰り返し「上書き」されて現れ、
どこが真実なのか、いつが現在なのか、場所はどこなのか、
誰が誰なのか、すべてがわからなくなる。

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「キュア」田口ランディ

田口ランディさんの最新作。
田口さんの小説は「生きること」「生命」「人間の存在性」を
常に真摯に、厳しく、追い求めている。
これも、表面は田口さんらしい、スピリチュアルな面や、
カルトっぽい面が全体を覆っているが、
追及しているのは、やはり「命」の意味だ。

キュア cureキュア cure
(2008/01/11)
田口ランディ

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優秀な外科医・斐川竜介は、人の電位にシンクロし、
同化する特殊な能力を持っている。
それを生かして、ダウジングのように患部を察知してメスをふるい、
難しいガン手術を次々とこなしている。
ところが、ある日、自分も末期がんであることを知り、
「生きたい」と強く願い、生きることを模索していく日々が始まる。

どうやったら生きられる?
手術できないガンを征圧することはできるのか?
もうオレは死んでいくしかないのか?

同じような能力を持つ優秀な看護師や、
斐川を愛するリストカットの少女、
理解し、協力を惜しまない後輩医師、
そして、いろんな方向からガンと闘う患者たちや
科学一辺倒の医師たちや、シャーマンや、導師や、
さまざまな人々によって「生命」がとことん追い求められていく。

現代医学の問題点や、精神論を厳しく分析しつつ、
生命の原初に立ち戻り、混沌とした宇宙から生命の息吹が
誕生するところまで検証し、
そもそも「生きる」って、「死ぬ」って、なんなんだ?
と問題を投げかける。

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「容疑者Xの献身」東野圭吾

東野さんをもう一本。
言わずもがな、天才ガリレオ・湯川学シリーズの長編で、
134回直木賞(←ついに受賞!の記念作)をはじめ、
ミステリ賞3冠達成、映画化も決まっており、
知らない人はない名作。

容疑者Xの献身容疑者Xの献身
(2005/08/25)
東野 圭吾

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これは実に東野さんらしい魅力あふれる作品で、
犯人vs湯川の攻防戦が見事で、かつ、エレガントだし、
実に切ない究極の愛があり、登場人物すべてが素晴らしく、
残忍な犯行にも思わず同調してしまう説得力がある。
ラストのなぞ解きもパーフェクト。

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「ダイイング・アイ」東野圭吾

東野さん、早くもあらたな新刊が話題だが、これはその前の。

主人公は、暴漢に襲われ、危うく一命は取りとめたものの、
記憶を一部喪失してしまう。
しかも、どうやら自分は数年前に死亡事故を起こしていたらしい。
周囲で不思議なことばかり起こる。わからないことだらけだ。
事故にからむ自分の過去を追及していく中で次々と現れる謎。
いったい何があったんだ?
まるで亡霊のような、妖艶な美女は一体なにもの?

ダイイング・アイダイイング・アイ
(2007/11/20)
東野 圭吾

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以下、ネタばれには気をつけていますが、未読の方はご注意を。

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「チーム・バチスタの栄光」海堂尊 

映画公開中である。
原作は「このミス」大賞のとき、某カートに入れたものの、
レジに運ばれるチャンスをなんとなく逸していたもの。
映画評は◎のものもあるが、
「原作のスピードや緊迫感をなくしてしまっている」との声もある。
友人談によれば、「1,000円(=Lady's Day)なら許す」とのこと(^^;
それならば、まずは原作を読もうじゃんということになった。
文庫版も出たことだし。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ [宝島社文庫] (宝島社文庫 599)チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ [宝島社文庫] (宝島社文庫 599)
(2007/11/10)
海堂 尊

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さすがにおもしろい!
作者・海堂尊さんは、某紙インタビューのお顔を拝見したとき、
「なんか、三谷幸喜さんに似てる」と思ったが、
やっぱり作品も三谷さんにどことなく似た風情がある。
優秀な頭脳と、ユーモアと、シニカルな視点を兼ね備えた
稀代の表現者だ。
とにかく、文章がうまい。リズム感が卓越している。

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「対岸の彼女」角田光代

引き続き、読みかけのまま放置の本を取り出し、積読を制覇中。
うちのはハードカバーだが、すでに文庫もあり、英字版も、デカ字版もあり、
時間とお金がダブルで私の無駄遣いを主張してくる(汗 >早く読め〜!
04年11月、第一刷。 03,11〜04,7連載。
132回直木賞受賞。

対岸の彼女対岸の彼女
(2004/11/09)
角田 光代

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角田さんの本は、どれも読後感さわやか、とはいかない。
まるで自分で書いた日記を読むような、アンタのことは全部知ってるよ、
と言われているような、私の中身をスースーに見透かされているような、
そんな気分を味わう部分の連続だからだ。
読み終えて、達成感とか、カタルシスとかはなく、
「あーあ、しかたないなー」って思うのに、
なんかまた読んでいる自分がいたりするわけで。

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「チョコレートコスモス」恩田陸

これ、おもしろかった!
「夜のピクニック」を読んだ後に、出てすぐ買ったものの、
即読みした友人C(^^のブログを読んで、なんとなくそのままにしてた。
(06年3月刊。04.6〜05,8連載)
けっこう長編(516P)だが、ノリ始めるとサクサク読める。
装丁(平野甲賀)もステキだ。sakuraさんの版画もいいが、
開き中表紙の中島博美さんの写真が、すごく雰囲気があって、
すばらしくよい。

チョコレートコスモスチョコレートコスモス
(2006/03/15)
恩田 陸

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一言で言うなら、「演劇ロマン」てことになるかな。
舞台に情熱を燃やす若者の群像ストーリー。
恩田さんはこの(若者+群像+夢)スタイルがお得意だし、
とても恩田さんらしい作品。

舞台関係者とか、プロとかが読んだらどうなのかはわからないが、
私程度の舞台ファンが読むにはすごくおもしろくて、
いっしょにワクワク、ゾクゾクする。
反対に、演劇系に興味のない人が読むには、おもしろくないのかも
しれないけど。(古典的な作品の即興アレンジとかも出てくるし)

(以下、ネタバレ考慮してますが、一応ご注意)


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